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福岡高等裁判所 昭和24年(う)872号 判決

被告人

本田常任

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

被告人本人及弁護人作元勝胤の各控訴趣意は夫々末尾添付の書面記載のとおりである。

弁護人の控訴趣意第一点について。

法律が主要食糧の加工移動等を制限又は禁止(食糧管理法第九條第三十一條参照)しその制限違反の行爲を処罰するのは、國民食糧の確保及國民経済の安定を図る爲政府の策定した全國的及地域的計画に從い、食糧の需給及價格の調整並に配給の統制を行う目的を達せんとするものであるから、食糧の自由且つ無制限な輸送等による之が地域的偏在により敍上法律の所期する目的に違背し又は違背する虞がない以上食糧の輸送等の行爲を処罰する律意ではないと解するを相当とする処本件事実関係は被告人の原審公判廷における供述檢第五号(被告人の檢察事務官作成の供述調書)被第一号(食糧配給公團龜川北配給所の配給証明書)被第二号(國立龜川病院医師宇都宮祥二の証明書)に依れば、被告人の同居家族は妻本田良子一人丈であるのに同女は昭和二十四年一月以來虫垂切除術後腹癒着症で國立龜川病院に入院加療中であつて衰弱甚しく食慾不振のため、自然被告人夫妻に対する正規の主食配給量が日々余るようになり漸次積つて一斗になつたので、被告人は之を精白した上別府市田の湯又は松原にある製菓所で内五升で病妻の好む白雪糖を、残五升で病妻や時々遊びに來る養子の子供等に食べさすためホッコン菓子を作つて貰う目的で同年四月十四日午前中右配給余剩米一斗を携帶して同市龜川の自宅を立出で新川停留所から同市内電車に乗り同市北浜停留所で下車し前記製菓工場に赴こうとする司法巡査に逮捕せられたというのである。そして檢第四号(被告人の司法警察員作成の供述調書中被告人の右所持の白米一斗は当日自宅で氏名不詳者から千五百円で闇買いし、更に之を利益を得て別府市内で轉賣する目的であつた旨の供述記載は前掲証拠に照らして直に信用できないところであつて、かくの如く被告人が自分等のため正規の手続により飯米として正当に配給を受けた余剩分を政府以外の者に賣却するのではなく自分の家族及近親の嗜好食に加工依託の目的で最少行政区劃である別府市の一地点から他地点まで携帶したという丈では前敍法律の目的に違背し又は違背する虞れもないと云えるから、被告人の本件所爲は食糧管理法第九條違反として同法第三十一條により処罰の対象とならないものと解しなければならぬ從つて弁護人の所論は相当であつて論旨は理由がある。被告人に対し有罪の言渡しをした原判決は破棄を免れない。

そこで、刑事訴訟法第三百九十七條、第四百四條第三百三十六條を適用し主文のように判決する。

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